それはちょっとした俺だけの秘密 ――















confess















ふっと目を覚ました時は夕暮れだった。

「ん・・・・」

身体に残る軽い倦怠感を払うように伸ばしてエースは周りを見回す。

そこは珍しく野外でも持ち歩きようテントでもない、ハートの城にある自分の部屋で。

(ああ、帰ってきてたんだっけ。)

以前時たましか帰ってこなかった部屋は自分の部屋というにはまだ慣れない感じがした。

まあ、以前よりはここでむかえる目覚めが多くなっているのは確実なのだが。

(俺はテントの方が快適なんだけど、ね。)

柔らかいベッドも悪くないが、自分一人だったらこんな城にいるよりテントで野外にいる方を好むだろう。

そう思いながらエースはついっと顔を横に向けた。

天井からベッドの半分へ。

移動した視界に映るのは、栗色の髪を無造作にベッドにばらまいて眠る一人の少女の姿。

「・・・・アリス」

起こす気などまるでない小声で呼びかけながらエースは片手を彼女に伸ばす。

頬に零れた髪を避けてもアリスは身じろぎもせずに眠っていた。

(ちょっと疲れさせたかな?)

彼女が起きている時に言ったなら「何を白々しいことを!!」と怒鳴られそうな事を考えつつエースは慎重にアリスの髪に指を通す。

サラサラと指を零れる髪はいくら触っていても飽きない。

いたずらするような感覚で髪の先に唇を落としてもアリスは眠ったままだ。

なんとはなしにエースは眠るアリスを腕の中に引き寄せる。

間近になれば規則正しい寝息が聞こえて、その小さな唇をそっとなぞった。

いつも少し捻くれた言葉ばかり飛び出す唇は眠っていると妙に素直に見える。

何処か皮肉げで覚めた目も閉じられていれば年相応。

「・・・・まあ、そんな君はちっとも面白くないけど。」

捻くれた言葉を言いながら、言ってしまった後後悔しているから可愛い。

そうでないものに憧れていながら、皮肉げで覚めた目をしてしまう君が愛おしい。

(俺も歪んでる自覚ぐらいはあるんだぜ?)

なんて言ったらますますアリスには不審げな目で見られそうだが。

くくっと喉の奥で笑ってエースは音を立ててアリスの瞼にキスをした。

そしてその感触を追うように目尻に、頬に。

「ん・・・・」

さすがにアリスが僅かに身を捩るけれど、もちろん逃がしたりはしない。

唇は壊れ物に触れるように。

腕は小鳥をかこう檻のように。

閉じ込めたアリスに何度かキスをしていると、もう一度小さくアリスの唇が動いた。

「・・・エ・・ース・・・・・・・ごめ・・・・・・」

その呟きにエースはぴたりと動きを止める。

アリスがこちらの世界に残る事をきめてからこちら、良く聞くようになった寝言だったからだ。

―― エース、ごめんね ――

自分はナイトメアではないけれど夢の中を覗かなくてもその言葉には覚えがあった。

あの日、アリスが帰らないと決めた頃。

残ると決めたのにエースを好きだと言っていないと自分を責めたアリスの言葉だ。

―― 失うのが怖いから口に出せない

―― ずるいのは分かってるけど、言えない・・・・

(ああ・・・・ねえ、アリス。言わなくていいよ。)

あの時の夢を見ているせいか少し辛そうに歪んだ頬をそっと撫でてエースは微笑んだ。

言わなくていい。

「好き」という言葉より、それを言うことが出来ないと夢の中でまで落ち込む君の想いは。
















―― なんて甘美な愛情だろう ――
















「アリス」

眠っているのに眉間によってしまった皺をそっと撫でてエースは唇に触れるだけのキスをする。

「本当に君って、俺を惚れさせるのがうまいよ。」

眠っていてまでこんなに愛おしいと思わせるなんて。

(でも、寝顔が可愛いなんて言ったらきっと「頭がおかしい」ぐらいいわれるんだろうなあ。あ、でも眠りながらうじうじしてる君がすごく好きだー、なんて言ったら拳握って殴りかかってきそうだけど。)

どっちも本当なんだけどなあ、というエースの呟きは幸か不幸か眠るアリスの耳には入らない。

起きているアリスの反応を思い描いてクスクス笑ったエースはもう一度アリスの髪を梳いて、それから常時爽やかが売りの彼にしてはいたずらっぽく口の端を上げた。

(それにさ)

自分のうでにアリスの頭を乗せて、エースはそっとその耳元へ唇を寄せる。

(「好き」って言葉が聞きたくなったら)

ナイトメアのように夢の中へ入ることは出来ないから、かわりに夢の中まで聞こえるようにエースはアリスの耳へ吹き込んだ。

「・・・・俺のこと、好き?」

「・・・・ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・すき・・・・・・・・・・」

舌っ足らずな発音でたどたどしく紡がれるたった2文字。

夢の中でそれを告げられた彼女はすっきりしたのだろうか、寝顔が途端に安らいだものになる。

そして僅か後。

「――っちょっ!!寝起きからなにすんのよーーーーーーーーー!!!!」

「えー?だって君が悪いんだぜ?俺をソノ気にさせるのがうますぎるから♪」

「は!?私は寝てただけっ!って、どこさわって ――!!」

―― エースの本気のキスで起こされたアリスの絶叫が響き渡るのだった。




















                                                〜 END 〜

















― あとがき ―
120%偽物エース再び(- -;)
前に書いた奴が甘いんだか暗いんだかわかんなかったので、今回は甘めを狙ってみたんですがエースが歪んでない。
しかもこれ、下手するとエンドレスですよね(笑)